元勇者の冒険の書

そろそろ冒険に出たいけど、町人に甘んじている元勇者の冒険の書です。

漆黒のヴィランズ メインクエスト『宿を発つなら』

テスリーン : うーん……。
諸々のお礼も兼ねて、あなたをきちんと、
おもてなししたいんだけど……。
テスリーン : ごめんなさい!
買い出しに行ってる間にも、仕事が山積みになってて……!
しばらく、アリゼーと待っててもらってていいかな?
アリゼー : そんなの、逆に居心地が悪いわよ。
……何か手伝えることは?
テスリーン : うう……本当にごめん、ありがとう……。
それじゃあ、アリゼーは一緒に備品の点検をお願い。
テスリーン : cloさんには、
患者さんたちに声をかけながら、
顔や体についた砂埃をぬぐってあげてほしいの。
テスリーン : 「パーニル」「トッデン」「ハルリク」の3人だよ。
新しい人が手を貸してくれたら、きっと嬉しいと思うから……
どうか、よろしくお願いします!

パーニル : ……ぅ…………あり、が、とう……。
トッデン : ………………。
トッデンは、じっとこちらを見ている。
少しだけ、嬉しそうに目を細めた気がした。

ハルリクの頬についていた砂埃を掃ったが、一切の反応がない。
肌が、石膏のような不思議な質感に変化している……。

テスリーン : あっ、もう済んだのかな……?
患者さんたちの様子、どうだった?
テスリーン : ……そっか、そんなに喜んでもらえたなら、
あなたにお願いした甲斐もあったね。
テスリーン : だけど、ハルリクはやっぱり……。
世話人のみんなとも話さなきゃならないけれど、
そろそろ……なのかもしれないね……。
アリゼー : …………テスリーン。
私、cloに見せたいものがあるんだったわ。
モルド・スークに行くけれど、何かお使いはある?
テスリーン : アリゼー……。
…………ごめんね、ありがとう。
テスリーン : それじゃあ、「ネクタリン」をお願いできるかな。
カサードさんの隊商が来てたから、
ローンロンさんの店で、入荷してるかも。
アリゼー : ということで、clo。
悪いけれど、ちょっとモルド・スークまでつきあって。
最初に、ローンロンの店ね。

ローンロン : あれ、さっきの旅人さん。
どうしたネ? ウチの味がクセになった?
アリゼー : ねえ、「ネクタリン」って入荷してる?
あったらひとつ、買いたいんだけど……。
ローンロン : あるヨ! あるヨ!
入荷したての、ぴっちぴちネ!
ローンロン : 旅人さん、さっき大盤振る舞いしてくれたネ。
だから、ネクタリンはおまけしとくヨ。
お代は結構ネ!
アリゼー : モルドの商人が、タダでプレゼントだなんて……
この店で何をそんなに買ったのよ……?
アリゼー : そうだ、白ミミズもある?
あるなら、それは私が買うわ。
アリゼー : ち、違うわよ、私が食べるんじゃないから!
これから、あなたをある場所に連れて行くのに必要なの!
アリゼー : ……で、あるの!?
ローンロン : もちろん、あるネ!
お買い上げ、大歓迎ヨ!
アリゼー : よし、これで買い物は完了だわ。
次は、集落の西側にある、一番大きな塔に行きましょう。
あなたに見せたいものが、その上にあるのよ。
アリゼー : 守衛のお仕事、おつかれさま。
……はい、あなたの好きな白ミミズよ。
それをあげるから、塔の上に登らせてほしいんだけど?
モルド族の守衛 : ひゃああ~、ぷりっぷりの白ミミズ!
た、た、たまらないネ!
モルド族の守衛 : 本当はダメなんだけど~……特別ネ?
これっきり、これっきりヨ?
アリゼー : 塔に上っていいそうよ。
じゃ、行きましょうか。

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アリゼー : あそこを見て。
大きな結晶の、切れ間のところ。
アリゼー : 向こうに、白い地平が見えるでしょう?
アリゼー : あれが、「光の氾濫」に飲まれた土地だそうよ。
ただ真っ白な、何ひとつない無の空間……。
アリゼー : 今なお強い光の力を帯びていて、
踏み入ろうとすれば、体のエーテルバランスを崩してしまう。
生命は、あの先じゃ生きていけないんだわ……。
アリゼー : ……さっき買ったネクタリンね。
ハルリクの……あの罪喰い化が進んでた子の、好物なのよ。

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アリゼー : あの子も含め、多くの患者は、
力ある罪喰いに襲われながら、かろうじて生き延びた人よ。
アリゼー : でも……その場では助かったというだけで、
敵の力は彼らに食い込み、エーテルを光で侵食していた。
アリゼー : 加えて、環境もご覧のとおり。
普通の人なら体が自然とバランスを整えるけれど、
彼らはもう、浴びるがままに光を蓄えてしまう……。
アリゼー : だからね……
遅かれ早かれ、いずれは全員、罪喰いになるそうよ。
アリゼー : テスリーンたちも、それはわかってる。
だから、一線を越えて完全な罪喰いになる前に、
必ず命を絶たなければならない。
アリゼー : 意識があったころ、好きだった食べ物に、毒を混ぜて。
……そんな最期を、何度も見てきたわ。
アリゼー : ……悔しいわよ、今でもずっとね。
戦っても戦っても、強さなんて足りやしない。
アリゼー : それでも、向き合わなきゃ。
私、散々あなたに置いていくなって言っておいて、
自分はあのザマだったじゃない?
アリゼー : あのタイミングで喚んでくれた水晶公には、
散々、物申してやったけど……
アリゼー : 誰のせいにしたところで、
あなたを戦場に置いてきたって後悔は、消えやしなかった。
だから、決めたの。
アリゼー : その分、こっちでできることがあるなら、
苦しい道だって、走り抜けてみせるって。
アリゼー : ……それが、今の私の決意で、支えだわ。
アリゼー : そろそろ戻りましょうか。
長く待たせたら、テスリーンもつらくなるだろうから……。

アリゼー : つきあってくれて、ありがとう。
「無の大地」のこと、あなたに見せておきたかったのよ。
この世界の実情を知る上では、欠かせないからね。
アリゼー : それと……いろいろと思うところがあるでしょうけど、
ネクタリンは、きちんとテスリーンに渡してあげてほしいの。
アリゼー : 人が罪喰いに変化してしまうことは、
他者にとって脅威であると同時に、
当人にも酷い苦痛をもたらすそうよ……。
アリゼー : 世話人のみんなは、患者たちのことが本当に大好きで、
だからこそ、苦しませたくないと思ってる。
彼女たちなりに、こんな世界と戦ってるんだわ……。
テスリーン : あ……おかえりなさい。
ネクタリンは、あったかな……?
テスリーン : ありがとう、確かにいただきました。
……その様子だと、事情も聞いたみたいだね。
テスリーン : 大丈夫、これは保険よ。
ハルリクのことは、できるだけ様子を見ようって、
世話人のみんなで話したの。
テスリーン : それでも、備えがあれば、急にときが来た場合に、
好きだったものと一緒に送ることができる……
本当に、ありがとうね。